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47都道府県の「ゲイ民性」 vol.3 「岐阜」

47都道府県の「ゲイ民性」 vol.3 「岐阜」

日本で一番性格が悪い地域はどこか。岐阜県在住の住職は、「私の住んでいるところでしょうな」と言ったことがあった。

戦国時代、岐阜県は主戦場の一つだった。ドラマになるような自分の信念を曲げない人も中にはいたが、生き残るために裏切る人もいた。ひょっとしたら、その方が多かったのではなかろうか。また、大きな川が何本も流れ、世界でも珍しい輪中(川と川の間にできる村)もある。川が氾濫しそうになると自分の地域を守るため、他の村に行って堤防を決壊させてしまうという話もある。

そういった地域で育まれたDNAなのだから猜疑心も強くなるし、性格が悪くなっても仕方がないと言うのだ。これが岐阜県の県民性として出てくる「保守的な人が多い」「よそ者は受け入れない」につながるのかもしれない。岐阜県職員のLGBTを差別するツィッターの投稿、「同性愛は異常」とヤジを飛ばした岐阜県の県会議員と、岐阜県のLGBTに関するニュースが続いた時、その住職の話を思い出したのだ。

岐阜県第二の都市「大垣市」。JR大垣駅の北側は量販家電、大型ショッピングモール、総合病院など平成の空気漂う再開発の街が広がる。南側に降りると昭和の温もりを感じさせる商店街や飲み屋街が広がっている。駅前から乗ったタクシーの運転手から、このあたりは国内有数の良質な地下水で知られ、「水都」と呼ばれていることを教わった。タクシーの会社名も「スイト」だった。

向かった先は、女の子が横についてくれ、酒を作ってくれる普通のクラブである。

「この店にいる子はみんな女性よ。女装は私だけ」

僕の横についてくれた長髪で細身の中年女性Iさんは甲高い声で、焼酎の水割りを作ってくれた。Iさんは、心は女性、身体は男性、性癖はバイセクシャルである。
Iさんは、この店には金曜日と土曜日の夜と週二回だけ出勤し、平日の昼間は溶接工の職人として働いている。

「溶接工の仕事も大好きなのよ。20歳から働いているから、もうすぐ25年になるわね、恰好?もちろん作業着よ」

家を出る時から長髪は団子状にしてタオルを巻いていく。工場では挨拶を交わすくらいで、後は一日中、顔を覆って黙々と溶接と向き合う。工場内の人との交流もないので、Iさんの夜の仕事を知っている人もいない。

「金曜日、土曜日に店で思いっきり話すから、平日はできるだけ話したくないのよね。工場内の交流がない分、家族の時間も持てるしね」

彼女には奥さんも子供もいる。

奥さんと知り合ったのは、今の店ではなく、ショットバーのバーテンダーをしていた時のことである。その時、既にIさんは女性の姿でシェーカーを振っていた。奥さんは、Iさんの心も身体も性癖も知っていた。彼女から、そのままでいいから結婚しようと言われたらしい。

「その時まで女性とも何人も付き合ってきたから、私にとっては結婚することに抵抗は全くなかったわ」

二人は結婚し、娘にも二人恵まれた。娘たちは父親の夜の仕事を知っている。現在、高校生の娘は、つけ爪などネイルの相談はIさんにする。ある日、突然、お父さんの様子が変わってしまったわけでもなく、物心ついた時から、その環境なので娘たちにとっては自然のことなのだ。小さい頃からそういった環境の中でいることのメリットを感じさせる話である。

「家庭は持ってよかったわ。それは別物。ただ、保守的な土地柄だから私のことを理解してもらうのは難しい。互いに心地よく住むために生活面は気を遣っているわよ。自分の住んでいる町でも、近所の人は溶接工の職人としての私は知っていても、この店で働いていることは知らないと思う。だから、お出かけは気を遣うわよ。もちろん、この店のお客さんとは外では会いたくないしね。それは、性別関係なく、こういった商売している人は、みんなそうなんじゃないかしら。やっぱり生活感があるところは見られたくないわよ」

下の娘さんが小学生で休みの日にプールや祭りに連れて行ってほしいとせがまれると、頭を団子状にして、バンダナを巻き、眼鏡するなど変装して出掛けるようにするらしい。

Iさんは50代の男性グループの席から呼ばれ、カラオケを披露しにいった。懐かしい「マジンガーZ」の主題歌が店内に響き渡る。彼女の甲高い声を忘れさせる野太い声に客席は大爆笑の後、大喝采である。

「こういう時は男性の身体が生きるわよね」

戻ってくるとビールを美味しそうに飲み干した。

「自分が他の人と違うかもってことには保育園の頃から、うすうす気づいていたわ。初恋も男の子だったし」

初体験は専門学校に入ってからだった。当時、Iさんは寮に入っていて、同室の男性と性行為をした。でも、同室の彼は女性がいないから仕方なくといった感じだったそうだ。Iさんは、卒業後、働き始めてから、女性とも付き合い、男性とも付き合うようになった。

「自分がバイなのかトランスなのかわからないけど、性転換したいと思ったことは一度もないわ。ただ、最近、思うことは交際するのは男性の方が楽かなぁと。理性と理性になるから。女性とつきあうと感情が先走るから面倒なのよね」

Iさんは、そう言いながら、ジャケットについていたポテトチップのかけらをはらった。この店で着る服は全てママのおさがりらしい。

「靴のサイズは23.5と小さいから、パンプスもママからのおさがりよ。ホント、何から何までママにはお世話になっている。そもそも私のような者を店に受け入れてくれたこと自体に感謝しているわ」

現在、大垣にはLGBT系の店はない。あった時期もあるが、すぐになくなったらしい。最近も新しくできたという噂を聞くが、大阪から週末に通って営業しているだけのようで、どれだけ続くかは疑問だと言う。

「よそものが根付くのは、なかなか難しい地域よね」

「よそもの」という言葉が様々な響きを含んでいるように感じた。他のグループ席からIさんに声がかかったようだ。

vol.1「沖縄」はこちら
vol.2「京都」はこちら

2020.07.28

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ブッチ

ブッチ

高校卒業後に映画の都ハリウッドに行くことを真剣に考えたが、周囲に猛反対をされ、しぶしぶ大学に進学。しかし、年間1,000本以上の映画を観る映画オタクになっただけで、映画の道はあきらめきれずに映画会社にもぐりこむ。そこから、ズブズブとエンターテインメントの世界の底なし沼に嵌まり込み、今、人生の道を見失っている途中。次の分岐では、右に行くか、左に行くか。