丸刈りにされた受刑者が、涙を流した理由 ~刑務所におけるLGBT問題~
もしもあなたがトランスジェンダーだったらと考えてみてほしい――。
あなたはある事情で罪を犯し、現在は独房にいる。そこはしかし、自分が自認する性とは逆の性別の人間が入るべき独房だ――いまの自分の性が男性ならば、周囲は女性だらけだと想像してほしいし、女性なら男性だらけだと想像してほしい。
男性が女性に囲まれるのは、ある意味でマンガのようなハーレム状態を想像できるかもしれないが、これが逆、女性なのに男性だらけとなると、途端に問題だらけとなる。
たとえば、刑務所に入所するに際し、男性は丸坊主にする必要がある。さらに、男性用の下着を着用する必要もある。もしも自分は女性なのに、「丸坊主にしろ!」「男性用の下着を着用しろ!」と言われたら、誰だってショックを受けることは容易に想像がつくのではないだろうか。
もしかすると、「犯罪者なのだからそれくらい我慢しろ」と、言う人もいるかもしれない。がしかし、基本的な人権は、刑務所においても守られて然るべきではないかと筆者は思う。なぜなら、誰かを守るために、結果的に犯罪者になってしまった、という人もいるだろうし、すべての犯罪者が本当の意味で“悪”とは限らないからだ。
さて、神戸刑務所(兵庫県)ではまさに、服役中のトランスジェンダーが適切な処遇を求めて訴えている。性別変更はできていないが、戸籍以外は「女性」であるこの受刑者は、刑の確定後、丸坊主にされて涙を流した。
当然だろう――髪は女性の命なのだから。
記事によれば、幼少期から自分は女性だと自覚して生きてきた。18歳で女性ホルモンの投与を始め、20代で性別適合手術を受けた。ただ、戸籍変更をするためにはさらに手術をして、性器の形を変更する必要があり、これは心にも身体にも負担が大きいことから断念。2004年、戸籍は男性のまま、名前のみ女性名に変更することを大阪家裁に申し立て、認められた。
つまり、心と名前は女性。戸籍は男性という状態で、罪を犯してしまったのだ。「戸籍以外は女性の状態」であるにも関わらず、入れられたのは男性刑務所だった。受刑者は以下のような措置を求めている。
・夜間のみ単独室で過ごせるよう要望。
・ホルモン投与の継続
・丸刈りを強要せず、女性用下着の着用を認める
・入浴や着替えなどの際は女性職員が対応する
罪を犯したおろかさは認めつつ、受刑者はこう語る。「私は女性として生きてきました。だから女性として罪を償わせてください」。前例を作ることは容易ではない。ただ、こうした問題があることも、我々は知っておくべきだろう。
<参考>
・朝日新聞デジタル 「性同一性障害、刑務所はどちらに? 受刑者が見直し訴え」
TODAY
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