47都道府県の「ゲイ民性」 vol.2 「京都」(前編)
ずいぶんと日が空いてしまったが、47都道府県のゲイ民性 Vol.2は京都に来た。
京都はゲイビデオが盛んだと聞いたことがある。そのせいか、ゲイ文化が盛んな地域というイメージがあった。
「KOカンパニーのこと?今はゲイショップだけで大阪に移転したよ。京都はそこまで盛んじゃないと思うけどなぁ。だって、キタ(堂山)やミナミ(難波)とか大阪に通いやすいからねぇ」
京都出身のゲイの知人は、あっさり否定した。確かに今回、訪れた阪急京都線の終着駅「河原町駅」から、キタにしろ、ナンバにしろ1時間程度で行くことができる。
地上に上がったところで、ドイツ人らしきカップルがパンをかじっていた。そういえば京都はパンの消費量が1位というマニアックなデータがあったっけ。
国内国外問わず、観光客でにぎわう四条通が東西に走り、河原町駅の東側には鴨川が南北に流れている。四条大橋を渡り、鴨川沿いを南に下ると宮川町がある。ここは安土桃山時代に歌舞伎小屋と茶屋が集まっていた地域だ。まだ舞台に立っていない修行中の少年(「陰間」と呼ぶ)を接待する花街でもあった。当然、男娼の陰間茶屋もあったと言われている。それは珍しいことではなく、東京でも日本橋人形町や湯島あたり、大阪では道頓堀にあった。
再び四条大橋を渡り、鴨川と平行に京都弁風に言えば、「はんなり(上品と気品を兼ね備えている)」と流れる高瀬川に沿って北へ上がる。ちなみに京都では、北に向かうことを「上がる」、南に向かうことを「下がる」、東西へは「入る」を使う。
飲み屋街の一つ「木屋界界隈」に近づくにつれ、人混みは更にはげしくなる。高瀬川沿いの道から、ほんの数十メートル西に入り、古そうな雑居ビルの細い階段を上がっていく。後ろから足音が聞こえ、何気なく振り返ると若い男性二人組も上がってくる。階段を上がったところでスマホを見るふりをして彼らを先に通した。同じバーに入るのかと思いきや、「飲み物一杯二百円」の紙が貼られた入り口のドアに手をかける。開けた瞬間から電子音の大音量と不健康そうなピンクのライトが漏れる店内へ彼らは消えていった。
その店の隣にある年月を感じさせる重厚な木の扉を開ける。カウンターとテーブル席が数席あるバー、言い換えれば地方のスナックにありがちな年月が染み込んでいる店が広がっていた。
カウンターの中に立つ細身の中年男性からいぶかしげな視線を受ける。歳の頃は五十代半ばといったところだろうか。
「こちらどうぞ」
白いセーターを着たぽっちゃり系の男性の隣の席へ案内される。客は年齢不詳の彼だけだ。彼は僕が入ってきた時に店主より先にこちらに目線を向けた。おそらく好みじゃなかったのだろう。興味なさそうにすぐに視線を戻し、グラスに口をつけた。
店内には手島葵の透き通った歌声が流れている。おそらく有線だろう。
ブッチ
高校卒業後に映画の都ハリウッドに行くことを真剣に考えたが、周囲に猛反対をされ、しぶしぶ大学に進学。しかし、年間1,000本以上の映画を観る映画オタクになっただけで、映画の道はあきらめきれずに映画会社にもぐりこむ。そこから、ズブズブとエンターテインメントの世界の底なし沼に嵌まり込み、今、人生の道を見失っている途中。次の分岐では、右に行くか、左に行くか。