同性3人同時に交際することは可能だろうか? 映画「ショートバス」より
心地いい日曜日の昼下がりだった。滞在先のベルギーの首都ブリュッセルのはずれの公園で、ビールを飲んでいた。近くの芝生に女性三人組が三角形に座り、全員、フライドポテトを右手に持ち、それぞれ左側に座った女性の右手から、つまり、トライアングル状態で一斉に食べていた。彼女たちが異性愛者か同性愛者だったかはわからないが、ベルギーは、エリオ元首相(2011年~2014年)が同性愛者であることを公表したことからも想像できるように、LGBTの面で成熟した国である。
その時、ふと思ったのだ。完全なる三角関係は可能だろうかと。つまり、三人同時に交際するってことはできないものかと思ったのだ。一夫多妻制や一妻多夫制とはまた違った、同性愛ならではの交際の可能性はないだろうかと。
「ショートバス」というニューヨークを舞台にした映画がある。「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で知られるジョン・キャメロン・ミッチェルの作品だ。性描写が過激なので好き嫌いは、はっきりわかれるだろうが、実は奥が深く、「愛とは何か?」「愛するという行為はどういうことか」などを考えさせてくれる作品である。
プロのSM女王、セックスカウンセラー、交際歴の長い仲の良いゲイカップルなど個性的な人々が登場する。SM女王セヴェリンはグランドゼロが見渡せるマンションの一室でSMクラブを経営しながらも常に寂しさを抱えている。セックスカウンセラーのソフィアは、夫とのセックスの際、感じているフリをしていて未だにオーガニズムに達したことがない。ゲイカップルの一人ジェイムズは、プールの監視員の仕事中、水難の死亡事故に遭遇してから鬱病を患い、恋人との新しい関係を模索している。それぞれ悩みを抱えた彼らはアンダーグランウドのサロン「ショートバス」に通う。ここでは、様々な愛の形や表現が溢れている。
ジェイムズたちゲイカップルは、「ショートバス」で知り合った男性を交え、ゲイ三人で交際のような関係を持ち始める。それを見ていたら、ベルギーで思い浮かべた三角形の交際の可能性を思い出した。完全な正三角形は難しいだろう。映画の中でも、二人のゲイカップルの中に新しく加わるゲイとの関係性とは、それぞれ違う。しかし、たとえ正三角形ではなくても、その三角形の形を三人が納得した関係性であれば成り立ちそうではある。性別の多様性が進んだ時、交際の多様性というのもあり得るのではなかろうか。
「ショートバス」
2006年/アメリカ/101分
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:スックイン・リー、ポール・ドーゾン、リンゼイ・ビーミッシュ、PJ・デボーイ他

イシコ
女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。
セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp