47都道府県の「ゲイ民性」 vol.1 「沖縄」
「人国記(じんこくき)」という本がある。著者・成立した年が未詳であるが、日本各地の地理、風俗、民情などの風土、いわゆる「お国柄(県民性)」を編纂したものである。日本は小さな国土ながら、南北に細長い四季に富んだ地形や歴史的背景また、宗教観などにより、各地に個性的な「お国柄」がたくさん生まれている。様々な「お国柄」があるということは、様々な人たちがいるということで「お国柄」も多様性の一つ。本コラムは、「人国記」からはじまった、様々な「お国柄」の分析・研究をベースに、現在の47都道府県別に「ゲイの県民性=ゲイ民性」を調査した“日本初”のレポートである。
記念すべき第一回は日本の最南端に位置する、沖縄。
一年を通して暖かい気候の沖縄は、その気候のせいか、沖縄時間(ウチナータイム)と言われる時間にルーズ、よく言えば、のんびりして、おおらかな気質を持ち、歴史的にも琉球国という独自の文化、歴史を育んだ地形なので、さぞや個性的で独特な「ゲイ民性」があろうかと期待に胸を膨らませて沖縄入りした。
早朝便のLCCで沖縄入りしたので、まずは、腹ごしらえをするために食堂へと向かったが、ここで、いきなり沖縄の「お国柄」を目の当たりにする。早朝から、食堂の厨房に60歳、いや、70歳は超えている女性がたくさん働いているのである。沖縄の「お国柄」の一つに「女性がしっかりしていて働きもの」というのがあるが、性別に関する「お国柄」は「ゲイ民性」にとっても重要なベンチマークである。沖縄名物の“ちゃんぽん”をかきこみ、早速、目抜き通りである“国際通り”へと赴いてみると、やはり、ここでも、年配の女性が働いている姿が多く目にとまった。一方、男性はというと、楽天主義でおおらかな照れ屋が多く、なよっとしてる気弱な方がモテるという。しっかりした働き者の女性とおおらかな照れ屋の男性。沖縄の男女の構図がおぼろげながら感じとれた。因みに、離婚率は全国一番であるという。
南国の長い陽も沈み、沖縄でゲイバーが一番密集している桜坂というエリアに向かった。桜坂エリアは、新宿二丁目のようなゲイタウンではなく普通の繁華街だが街の雰囲気や佇まいに趣があり、「ゲイ民性」以外にも興味が尽きないエリアである。目的のゲイバーに到着する少し前に、ちょっとしたハプニングがあった。通りを歩いていると、一見して地元のおじさんに声をかけられた。「ナイチ(内地)の人やろう?いい店紹介するから、おいで!」。陽気な雰囲気と強引さに任せるままになっていると、そのおじさんは店に入っていき、何やらお店の人と交渉している。「ナイチの人やけん一人2,000円ね。いいやろ?そら、おいで!入って、入って!」、これも沖縄の洗礼かと店に招かれると、店には、お客はおらず一人の女性が座っていた。見たところ結構なお年を召していらっしゃる。話を聞いてみると、この店は沖縄一ベテランのママが運営するスナックであった。昔は数十件の店を切り盛りしていたことや有名な芸能人も度々訪れていることなど、ママとの会話で小一時間過ごすうちに、ゲイバーに行く頃合いとなった。
目的のゲイバーは東京の知り合いのゲイに、あらかじめ聞いていた店である。その世界は、その世界の人に聞く。間違いはない店とはいえ、扉の前にたった時に少し不安になった。普段飲みなら特に気負う必要もないのだが、今回は仕事である。中から陽気な声が聞こえてくる木製の扉を、勇気を出して開けてみる。
ギィ~~~
陽気な声がピタッと止まる。同時に30個ほどの瞳が一斉に突き刺さる。
「しまった!」
踵を返そうと思った次の瞬間。
「いらっしゃ~い♪」
いつも聞く、あの生ぬるい歓待の声に安堵した。
無事、入店を許可された(もちろん、お店側には拒絶の意思はなかったが)ところで、店内を軽く見まわしてみた。店のあしらいは特に変わったところがあるわけではなく、女性客だけの席もあれば、ワイワイやってる席も、しんみり飲んでる席もある。前菜的なお酒と会話を愉しんでる中で、「うちのように、ノンケや女性OKのゲイバーって、沖縄にはほとんどないんですよ。」という話を聞いて、知り合いのゲイに相談して聞いておいて良かったと思った。というのも、女性OKのゲイバーはエンターテイメント要素が高いので、ゲイバーのハードルとしてはカジュアルな部類に入る。つまり、「ゲイ民性」の調査でいろいろ聞くには話しやすいということになる。知り合いのゲイには「ゲイ民性」の調査という目的は伝えていなかったが、見知らぬ地でのことなので、あえてカジュアルな店を選んでくれたのだろう。そんな、ゲイのきめ細やかな配慮に感謝しつつ本題へと入った。今回の目的を告げ、沖縄の「ゲイ民性」について聞いてみたのである。
開口一番出てきたのが、「シャイな人が多いから受け身が多い。」というものである。想定していたとはいえ、やはり、沖縄の男性の「お国柄」と同じ「照れ屋」ということであった。そして、こう続いて納得した。「だから、うちみたいな店が少ないのよ。」つまり、シャイなゲイが多いから、女性やノンケへの接客がうまくできないので、自然と女性やノンケが行ける店が少ない=女性やノンケお断りの店が多いということらしい。入店直後に話した内容に合点がいった。今回は、「お国柄」の特徴が、そのまま「ゲイ民性」になるという分かりやすいパターンのようであるが、これが果たして、ベーシックかどうかは今後の調査の中で明らかになるのかもしれない。その他にも、いろいろ聞いてみたが、「お国柄」と「ゲイ民性」に関連する話もなく、この「シャイで受け身」というのが、沖縄の「ゲイ民性」の一番の特徴になるだろう。
それにしても、お客さんが入れ代わり立ち代わりでスタッフも忙しそうにしていた。東京から来ているという常連の女性客とは、フライトもホテルも偶然同じだったことが判明し、意気投合するなど面白い出会いにも恵まれた。折しも、ラグビーのワールドカップの時期で、日本代表が試合に勝利したと報じられ、シャンパンが振る舞われた。歓喜するゲイバーのスタッフたちを見て、ふと気になったので、最後に一つだけ質問をしてみた。その答えを、沖縄の「ゲイ民性」の二つ目の特徴とすることにしよう。
「もちろんじゃない!沖縄のゲイの子は、だいたいガッチリした体型が好みよ♪」
【沖縄のゲイ民性】
1:シャイで受け身のゲイが多い
2:ガッチリした体格の男性を好むゲイが多い
イケメン度:★★★★☆
シャイ度:★★★★☆
のんびり度:★★★★★
ブッチ
高校卒業後に映画の都ハリウッドに行くことを真剣に考えたが、周囲に猛反対をされ、しぶしぶ大学に進学。しかし、年間1,000本以上の映画を観る映画オタクになっただけで、映画の道はあきらめきれずに映画会社にもぐりこむ。そこから、ズブズブとエンターテインメントの世界の底なし沼に嵌まり込み、今、人生の道を見失っている途中。次の分岐では、右に行くか、左に行くか。